2022年1月29日 更新

D.I.Y.リサーチ入門(設計編)4定性調査の流儀(2) 

gettyimages (3504)

定性調査のトラディションについて、前回は次の3つについて示しました。
1 個別の消費者を深く理解し、記述する
2 消費者の行動を社会集団や文化状況と結びつける
3 通説や常識とされていることを覆す

現実や変化、物事の間の因果関係について数字・実験を使って客観的に表すという定量調査のアプローチと比べると、その違いがわかると思います。今回は引き続き定性調査のトラディションをもう3つご紹介します。

流儀4 社会的・倫理的な問題点を明らかにする

単に言えば、商品やサービスに、意図しなくても「社会に悪影響がある」とか「不公平がある」とか「不正な点がある」としたら、それを暴き、直していこうという視点です。

というと、マーケティング・リサーチにはあてはまらないのではないかと感じるかもしれませんが、SDGsやそれに基づくマーケティングが叫ばれている現在、実はとても必要とされているアプローチのように思います。

また、最近注目されているテーマとして、AIやコンピュータ・アルゴリズムを使ってサービスやマーケティングが展開されるときに、その仕組み自体が、社会的な差別や不公平を再生産してしまう問題があります(Amazonの採用システムやgoogleの画像ラベリングが有名な例)。

アルゴリズミック・バイアスと言われるこうした問題も、オンライン広告・コミュニケーションの適切なあり方なども含めて、マーケティング・リサーチのテーマとなってくるのかもしれません。

流儀5 裏の意味をさぐる

「裏」というのは悪い意味ではなくて、たとえば「ベンツ」=「お金持ち」というような象徴的な意味のことです。誰にとってもそうか、というとそう簡単ではなく、ベンツユーザーにとっては、AクラスとGクラスの対比を考えてその意味合いも変わってきそうですから、人や状況によっても異なることがわかります。

このように考えると、例えば、スーパーの棚に自分の会社の商品と競合の商品が並んで置かれているとき、そのパッケージを対比してどんな意味合いが消費者に伝わっているのか、という問いがたてられます。

この「意味をさぐる」アプローチは、ブランドや広告、商品パッケージとその要素の分析にとても親和性があります。ことばやイメージが、特定の消費者にとってどんな記号・象徴として機能しているのか、逆に混乱をもたらしているのか、といったことを明らかにします。

あるいは、店舗のデザインについて、空間の要素やその配置が利用者に何の象徴として受け取られ、どのような顧客体験を生んでいるのか、といったリサーチ課題もこのアプローチとなりえます。

流儀6 少数のデータから客観性・妥当性のある説明を導く

定量調査で統計的にまとめられる以外のことについても、確からしい事実や説明を求めていく方向性のアプローチです。

このアプローチによくみられるのは、既存の定量調査で使われる変数や仮説・モデルが適切なものなのかを、個々の消費者の言葉や行動にたちかえって、再検討することです。

例えば、消費者とブランドの関係が、認知・使用・ロイヤリティといったファネルで十分捉えられているのか、という問題意識があった場合、消費者のブランドに対する意識や利用行動を細かく調査し記述するところからはじめて、関係性を説明する言葉やモデルをあらためて作り上げていきます。(事例:Susan Fournier 1998 “Consumers and Their Brands: Developing Relationship Theory in Consumer Research”)

このアプローチでは、結論の客観性・妥当性を担保するために、複数のデータ・研究結果を突き合わせるなどの手続きが重視されます。

また、少数のケーススタディから因果関係についての結論を客観的に導くため集合論などの数学的手法を使う、質的比較分析(QCA)という手法も最近はよく知られるようになっています。

前回、今回で紹介した定性調査のトラディションは、「消費者理解のための定性的マーケティングリサーチ」(ベルク他、2016)という教科書にある次の6つ−実存主義的現象学/解釈学/ポストモダン/批判理論/記号論/新実証主義−について、私なりに理解できる範囲で簡単に説明したものです。

言いたいことは、定性調査を行うときに、必要に応じてこれらのアプローチを活用しようということです。どの(1つまたは複数の)アプローチを採用するかによって、欲しい情報やどんなインタビューをしたらいいかが決まってきます。

上記の6つのトラディションは一般に定まったものではないですし、一般的な定性調査/質的研究のトラディションというよりは、マーケティング・リサーチ寄りのものになっていると思います。

私の理解や説明が不十分・不適切なところも多々あると思いますので、アカデミックなところからきちんと勉強したい方は、ぜひ原典や文献にあたってみてください。


9 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

D.I.Y.リサーチ入門(設計編)4定性調査の流儀(1)

D.I.Y.リサーチ入門(設計編)4定性調査の流儀(1)

DIYリサーチのツール・サービス、アンケートの設計から分析までのかんたんな入門コラム
KOJI.A | 35 view
リサーチ手法:Vox Pops

リサーチ手法:Vox Pops

MOSのVox Popsはラテン語のVox Populi、「人々の声」という意味で、MOTSはMan On The Street、つまり、テレビのニュースなどでしょっちゅう目にしている路上インタビュー、路上アンケートのことです。
KOJI.A | 102 view
危機とアナリティクスと定性調査と

危機とアナリティクスと定性調査と

パンデミックのような危機には、仮説の発見を得意分野とするアナリティクスこそが、学習と順応という点で企業に優位性を与える、したがってアナリティクスに投資すべきだ、というような主張でコラムはまとめられています。
KOJI.A | 111 view
「定量」と「定性」の違い

「定量」と「定性」の違い

調査について勉強すると最初に「定量」と「定性」があると教わります。「定量」はQuantitative、「定性」はQualitativeの訳で、「量的」「質的」という言い方もあります。 本記事では調査における「定量」と「定性」の違いについてお話します。
KOJI.A | 147 view

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

KOJI.A KOJI.A