HBR (Harvard Business Review) 2月号で、グーグルのサイエンティスト Cassie Kozyrkov (キャシー・コジルコフ)が「危機に活躍するのは機械学習や統計学ではなくアナリティクスだ」というコラムを書いていたのでご紹介します。
Kozyrkovの言う「アナリティクス」とは、データマイニングやビジネスインテリジェンスと言い換えられるもので、アナリストは、「適切な仮説を立てることに長けて」いて「曖昧性の中で活躍する」ことが特長だと書かれています。
「アナリティクス」をマーケティング・リサーチの分野にパラフレーズすると、定性調査や探索的な目的のサーベイに対応するものだと思います。
コラムの内容を大雑把にまとめると、
AIや機械学習は、平時のデータからモデルを作り、業務を自動化していくものだから、危機によってルールが変化したときには陳腐化しかねない。
統計学は、仮説を検証することができるが、適切な問いや仮説自体を作り出すことは専門外である(マーケティング・リサーチで言うと、因果実験、商品テストのような定量調査のイメージです)。
パンデミックのような危機には、仮説の発見を得意分野とするアナリティクスこそが、学習と順応という点で企業に優位性を与える、したがってアナリティクスに投資すべきだ、というような主張でコラムはまとめられています。
ただし、アナリティクスには時間と手間がかかり、短期的にはコストに見合う有益な情報が得られないかもしれないこと、とはいえ、その余裕のある大企業では管理が行きすぎる傾向があり、アナリストが束縛なしにリサーチに打ち込める機会が失われるため、アナリストは不満を持って辞めていってしまう、とKozyrkovは言っています。
これは、一般的なメーカーやサービス会社だけでなく、リサーチを専門とする会社にもあてはまりそうなことだと思いますね。
さて、コロナ禍とその影響で先の見えない現在、マーケティングの分野でも、今後どのような変化が想定されるのか仮説を探索する調査を、企業も積極的にやりたがっているように思います。ところが、そこで期待される定性のリサーチは中心がオフラインの手法であり、全く実査がやりにくくなってしまっている。そこでオンラインの定性調査手法を改善・拡大したいというのが業界の現状のようです。
社会学の分野では近年、定性調査(質的調査)の方法論の進展がめざましく、書店の社会学の棚をみると関連書籍がたくさん並んでいます。また、定量調査と定性調査の組み合わせ(混合研究法)や、質的データの数学(集合論)的分析である質的比較分析(QCA – Qualitative Comparative Analysis)のような手法が盛んになっており、調査研究にあたって、定量と定性というような分け方をするのは「擬似区分ということでおおむね決着がついている」などと言われているようです(佐藤健二『社会調査史のリテラシー』2011)。
マーケティング・リサーチにおいても、旧来的な定量/定性という流儀を超えて、「適切な仮説や問い」を探索するための様々な手法の開発が期待されますし、そのためには、Kozyrkovが言うようなアナリティクスの特長(時間がかかるかもしれない、結果が出るのか不確実な調査を束縛なく実行できる環境が必要)を踏まえた上での、賢明な投資が必要なように思います。
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Kozyrkovの言う「アナリティクス」とは、データマイニングやビジネスインテリジェンスと言い換えられるもので、アナリストは、「適切な仮説を立てることに長けて」いて「曖昧性の中で活躍する」ことが特長だと書かれています。
「アナリティクス」をマーケティング・リサーチの分野にパラフレーズすると、定性調査や探索的な目的のサーベイに対応するものだと思います。
コラムの内容を大雑把にまとめると、
AIや機械学習は、平時のデータからモデルを作り、業務を自動化していくものだから、危機によってルールが変化したときには陳腐化しかねない。
統計学は、仮説を検証することができるが、適切な問いや仮説自体を作り出すことは専門外である(マーケティング・リサーチで言うと、因果実験、商品テストのような定量調査のイメージです)。
パンデミックのような危機には、仮説の発見を得意分野とするアナリティクスこそが、学習と順応という点で企業に優位性を与える、したがってアナリティクスに投資すべきだ、というような主張でコラムはまとめられています。
ただし、アナリティクスには時間と手間がかかり、短期的にはコストに見合う有益な情報が得られないかもしれないこと、とはいえ、その余裕のある大企業では管理が行きすぎる傾向があり、アナリストが束縛なしにリサーチに打ち込める機会が失われるため、アナリストは不満を持って辞めていってしまう、とKozyrkovは言っています。
これは、一般的なメーカーやサービス会社だけでなく、リサーチを専門とする会社にもあてはまりそうなことだと思いますね。
さて、コロナ禍とその影響で先の見えない現在、マーケティングの分野でも、今後どのような変化が想定されるのか仮説を探索する調査を、企業も積極的にやりたがっているように思います。ところが、そこで期待される定性のリサーチは中心がオフラインの手法であり、全く実査がやりにくくなってしまっている。そこでオンラインの定性調査手法を改善・拡大したいというのが業界の現状のようです。
社会学の分野では近年、定性調査(質的調査)の方法論の進展がめざましく、書店の社会学の棚をみると関連書籍がたくさん並んでいます。また、定量調査と定性調査の組み合わせ(混合研究法)や、質的データの数学(集合論)的分析である質的比較分析(QCA – Qualitative Comparative Analysis)のような手法が盛んになっており、調査研究にあたって、定量と定性というような分け方をするのは「擬似区分ということでおおむね決着がついている」などと言われているようです(佐藤健二『社会調査史のリテラシー』2011)。
マーケティング・リサーチにおいても、旧来的な定量/定性という流儀を超えて、「適切な仮説や問い」を探索するための様々な手法の開発が期待されますし、そのためには、Kozyrkovが言うようなアナリティクスの特長(時間がかかるかもしれない、結果が出るのか不確実な調査を束縛なく実行できる環境が必要)を踏まえた上での、賢明な投資が必要なように思います。
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