2 アンケートの対象者(パネル)と配信・回収
前回はアンケートの実施にあたって、対象者のリストがある場合について説明しました。DIYリサーチ入門(8)で書きましたが、リストがある場合には、アンケートの回収率(一般に、回答した人の数÷依頼した人の数)と、リストから確率抽出して依頼した場合はサンプルサイズ(一般に回答した人の数)から、アンケート結果そのものとリスト全体を調べた時の値との誤差を推定することができます。さらに、使用したリストの想定している母集団に対するカバー率から、母集団との誤差、つまり調査の正確性がどの程度か推定することができます。
以上は標本調査(サンプリングサーベイ)のとてもシンプルな理屈ですが、実際はなかなか理想的な状況で調査をすることは難しいことが多く、リストがあってもカバー率がごく低かったり、母集団との偏りがかなり大きい集まりだったりしますし、回収率が非常に低くなってしまうこともあります。さらに、そもそも使えるリストがないということもあります。こういった場合にどうやって回答者を募ってアンケートを実施し、ある程度信頼できる結果を得られるか、アイデアやテクニックを考えるのが、調査実務上の面白みになります。
以上は標本調査(サンプリングサーベイ)のとてもシンプルな理屈ですが、実際はなかなか理想的な状況で調査をすることは難しいことが多く、リストがあってもカバー率がごく低かったり、母集団との偏りがかなり大きい集まりだったりしますし、回収率が非常に低くなってしまうこともあります。さらに、そもそも使えるリストがないということもあります。こういった場合にどうやって回答者を募ってアンケートを実施し、ある程度信頼できる結果を得られるか、アイデアやテクニックを考えるのが、調査実務上の面白みになります。
対象者のリストがない場合
リストがない場合、そのリストを作る(リスティング)ところから始めることもあります。例えば、東京都に住む18歳以上の人を対象に調査をする、という場合、こんなリストのつくり方が考えられます。
(地点抽出からのリスティングの例)
1) 東京都を細かい地域メッシュに分け、各地域メッシュの居住人口にそった抽出確率を使って、調査地点をランダムサンプリングする。
2) 選ばれた調査地点内について、Google Streetviewを使って巡回し、集合住宅の場合は世帯数を推定して抽出確率に反映したうえで、住宅をランダムサンプリングする(ここまでで、対象の住宅のリストができました)
3) 選ばれた住宅に出向き、18歳以上の世帯員の人数を尋ね、ランダムにその中から対象者を決定する(対象者リスト)
4) 選ばれた対象者に調査を依頼する
この例は余りに大変で、しかも住宅に出向いて答えてもらうのがあまりに難しそうなため、現実的でないと思われそうですが、世論調査の一部はこれに似た方法で対象者をリスティングしています。
また、電話の世論調査では、RDD(ランダムディジットダイアリング)という手法でリスティングを行っていることが良く知られています。RDDであれば、先の例は次のように考えることができます。
(RDDの例)
1) 東京都内の電話番号としてありうる数字の空間から、ランダムに電話番号を発生させる
2) 電話をかけ、東京都内の一般の世帯かどうか確認する(対象の世帯のリスト)
3) 固定電話の場合は、世帯員の中から18歳以上の人数を確認し、ランダムにその中から対象者を決定する(対象者リスト)
4) 携帯電話の場合は、基本的に所有者が18歳以上であれば対象者と決定する
5) 選ばれた対象者に調査を依頼する
6) 対象者の携帯電話・固定電話保有数、世帯人数から事後的にその人が抽出される確率を計算する
これも、携帯電話は地域との関係がわからないとか、知らない番号からの電話に出て答えてくれるとは思えない、とかあまりにも大変そうに思えますが、理屈上は確率抽出できそうで、あとは実現のためのさまざまな工夫、ということになります。
ここまでの例は、リスティングを厳格に行うときの考え方を理解してもらうために示したものです。もう少しD.I.Y.リサーチで現実的に行えそうなリスティング手法をみてみます。
(地点抽出からのリスティングの例)
1) 東京都を細かい地域メッシュに分け、各地域メッシュの居住人口にそった抽出確率を使って、調査地点をランダムサンプリングする。
2) 選ばれた調査地点内について、Google Streetviewを使って巡回し、集合住宅の場合は世帯数を推定して抽出確率に反映したうえで、住宅をランダムサンプリングする(ここまでで、対象の住宅のリストができました)
3) 選ばれた住宅に出向き、18歳以上の世帯員の人数を尋ね、ランダムにその中から対象者を決定する(対象者リスト)
4) 選ばれた対象者に調査を依頼する
この例は余りに大変で、しかも住宅に出向いて答えてもらうのがあまりに難しそうなため、現実的でないと思われそうですが、世論調査の一部はこれに似た方法で対象者をリスティングしています。
また、電話の世論調査では、RDD(ランダムディジットダイアリング)という手法でリスティングを行っていることが良く知られています。RDDであれば、先の例は次のように考えることができます。
(RDDの例)
1) 東京都内の電話番号としてありうる数字の空間から、ランダムに電話番号を発生させる
2) 電話をかけ、東京都内の一般の世帯かどうか確認する(対象の世帯のリスト)
3) 固定電話の場合は、世帯員の中から18歳以上の人数を確認し、ランダムにその中から対象者を決定する(対象者リスト)
4) 携帯電話の場合は、基本的に所有者が18歳以上であれば対象者と決定する
5) 選ばれた対象者に調査を依頼する
6) 対象者の携帯電話・固定電話保有数、世帯人数から事後的にその人が抽出される確率を計算する
これも、携帯電話は地域との関係がわからないとか、知らない番号からの電話に出て答えてくれるとは思えない、とかあまりにも大変そうに思えますが、理屈上は確率抽出できそうで、あとは実現のためのさまざまな工夫、ということになります。
ここまでの例は、リスティングを厳格に行うときの考え方を理解してもらうために示したものです。もう少しD.I.Y.リサーチで現実的に行えそうなリスティング手法をみてみます。
アンケートURLを公開して募集する
オンライン調査で、アンケートURLを公開して、回答者を何らかの形で募集して答えてもらう方法を、オープン調査といいます。これに対して、リストがあって決められた対象者のみにURLを伝えて回答依頼する方法はクローズド調査といいます。
一番簡単そうなのは、何らかのオウンドメディア、例えば自社ウェブサイトやSNS上でアンケート回答者を募集するという方法です。ただし、この方法ではそのメディアのユーザーに応募者が限定されてしまうので、調査のテーマは限られます。自社サイトのユーザビリティについてのアンケートとか、自社商品のファン層へのアンケートならこの方法でもよさそうです。
オープン調査を実施するときの考慮事項は、インセンティブ(謝礼)をどうするか、同じ人が何度も答えてしまうことをどう防ぐか、あたりになります。
インセンティブはコストに反映する一方、調査のテーマによっては、また調査のボリュームが大きくなるほどインセンティブなしでは答えてくれる人が少なくなってしまいます。逆に、アンケート内容や結果の使い方に社会的意義があるとか、答えること自体が面白いとか、ボリュームが小さくすぐ答えられるようなものなら、インセンティブなしで多くの人が答えてくれる場合もあるでしょう。目的に賛同して答えてくれるようなテーマであれば、「調査結果のフィードバック」、つまり後で調査結果をシェアすることをインセンティブにする場合もあります。
コストが問題になる場合には、インセンティブを抽選にする(抽選で当たった人のみ謝礼を送る)という手もあります。
また、インセンティブをどのタイミングでどう渡すか、というのも考えなければいけない問題です。オンライン調査の場合、何らかの電子的なインセンティブ、例えばポイントとか電子マネーとか電子ギフト券などを、回答後すぐ(抽選が行われ)もらえるような形が一番スマートで手間も少ないと思います。回答者リストを整理して、抽選を行い、記入された住所に謝礼を郵送、とかではだいぶ手間とコストがかさみますし、回答者も不便、スマートでない、めんどうくさいと感じると思います。
インセンティブを出す場合は、二重回答をどう防ぐかが重大な問題になります。つまり、謝礼目当てで何度も回答されては困るので、IPアドレス、クッキー、ディジタルフィンガープリントその他の情報、インセンティブ取得時の認証、あるいは謝礼が欲しい人には個人情報を入力させる、といったことによるユニーク性の判別によって、これを回避します。
以上のようなオープン調査の実施上、必要になってくる機能がいろいろあります。
例えば、
・ウェブサイトやSNS上にアンケートへの誘導インターフェイスを簡単に展開できる
・調査結果のフィードバックを簡単にオウンドメディア上に展開できる
・電子的インセンティブへの連携機能
・抽選機能
・ユニーク性の各種判別機能(アクセス制限)
などが、リサーチツールに備わっていると、オープン調査を実施する場合にはとても便利に使えると思います。
次回は、引き続きリストがない場合のアンケートの実施について、リサーチ会社の持っているパネルを借りることを中心に説明したいと思います。
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一番簡単そうなのは、何らかのオウンドメディア、例えば自社ウェブサイトやSNS上でアンケート回答者を募集するという方法です。ただし、この方法ではそのメディアのユーザーに応募者が限定されてしまうので、調査のテーマは限られます。自社サイトのユーザビリティについてのアンケートとか、自社商品のファン層へのアンケートならこの方法でもよさそうです。
オープン調査を実施するときの考慮事項は、インセンティブ(謝礼)をどうするか、同じ人が何度も答えてしまうことをどう防ぐか、あたりになります。
インセンティブはコストに反映する一方、調査のテーマによっては、また調査のボリュームが大きくなるほどインセンティブなしでは答えてくれる人が少なくなってしまいます。逆に、アンケート内容や結果の使い方に社会的意義があるとか、答えること自体が面白いとか、ボリュームが小さくすぐ答えられるようなものなら、インセンティブなしで多くの人が答えてくれる場合もあるでしょう。目的に賛同して答えてくれるようなテーマであれば、「調査結果のフィードバック」、つまり後で調査結果をシェアすることをインセンティブにする場合もあります。
コストが問題になる場合には、インセンティブを抽選にする(抽選で当たった人のみ謝礼を送る)という手もあります。
また、インセンティブをどのタイミングでどう渡すか、というのも考えなければいけない問題です。オンライン調査の場合、何らかの電子的なインセンティブ、例えばポイントとか電子マネーとか電子ギフト券などを、回答後すぐ(抽選が行われ)もらえるような形が一番スマートで手間も少ないと思います。回答者リストを整理して、抽選を行い、記入された住所に謝礼を郵送、とかではだいぶ手間とコストがかさみますし、回答者も不便、スマートでない、めんどうくさいと感じると思います。
インセンティブを出す場合は、二重回答をどう防ぐかが重大な問題になります。つまり、謝礼目当てで何度も回答されては困るので、IPアドレス、クッキー、ディジタルフィンガープリントその他の情報、インセンティブ取得時の認証、あるいは謝礼が欲しい人には個人情報を入力させる、といったことによるユニーク性の判別によって、これを回避します。
以上のようなオープン調査の実施上、必要になってくる機能がいろいろあります。
例えば、
・ウェブサイトやSNS上にアンケートへの誘導インターフェイスを簡単に展開できる
・調査結果のフィードバックを簡単にオウンドメディア上に展開できる
・電子的インセンティブへの連携機能
・抽選機能
・ユニーク性の各種判別機能(アクセス制限)
などが、リサーチツールに備わっていると、オープン調査を実施する場合にはとても便利に使えると思います。
次回は、引き続きリストがない場合のアンケートの実施について、リサーチ会社の持っているパネルを借りることを中心に説明したいと思います。
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