2020年6月9日 更新

マーケティングリサーチにおける性別質問

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性別の選択肢が男性/女性の2つでよいのか

クライアントや対象者、他のリサーチャーからこのような質問を受けたことは、私自身はありません。しかし、様々な現場で多少なりとも起こっているのではないかと思われます。

回答者の性別は、マーケティングリサーチで知りたいことそのものではないのですが、知りたいことを正しく推定するための補助項目として、あるいは理解するための分析軸として必ず活用される項目なので、質問しないわけにはいきません。

現在行われているアンケートはほとんど「男性/女性」の2選択肢だと思います。今後選択肢をどうしていったらよいのでしょうか。

性別質問は性自認(ジェンダーアイデンティティ)についてで、セクシュアリティを問うことはほぼないので、男女2分法で困るのは、いわゆるLGBTのうち、主に「Xジェンダー」の人に関することと考えられます。Xジェンダーは日本国内で約1万人といわれています(NHK NEWSWEB https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190719/k10011997521000.html)。

また、輿論科学協会のリサーチャー井田さんの論文では、該当者を「性別違和を感じている人」と考え、医療機関受診者数をベースに非受診者数を推定し、12万5,000人(総人口比約0.1%)とみています(井田潤治「性別質問と性同一障害・性別違和」2018)。

この問題はリサーチに限ったことではなく、様々なウェブサービスの登録フォーム等でも同様の問題が生じるので、このことに意識的なサービスではISO5218(性別のコード表記に関する国際規格)に沿って、「男性/女性/その他/(答えたくない)」という選択肢を用意しているようです。

ISO5218の性別コード
0 = not known
1 = male
2 = female
9 = not applicable


アンケート作成ツールSurveyMonkeyの質問テンプレートにある性別質問も同様のものがあり、次のような選択肢が用意されています。

What is your gender?
1 Female
2 Male
3 Other (specify:                 )
(https://www.surveymonkey.com/curiosity/ask-survey-questions-sexual-orientation-gender-identity/)


これでいいじゃん!と言いたくなるのですが、調査の観点では考えておくべき問題があります。

無回答を認めるか(必須回答制御を外す)

前述の井田論文では、「その他」選択肢を追加するのではなく、『世論調査、社会調査の性別項目は現状では、「男性・女性」を提示して無回答を容認する、可能にすることが妥当』と逡巡しつつ述べています。

というのはなぜかというと、0.01%~0.1%と推定される該当者のために、単純に「その他」選択肢を設けるだけだと非標本誤差が大きくなってしまう、ということを問題視しているためです。

2016年に行われたオーストラリアのセンサスで、性別質問に「その他」を設けたところ、「その他」にチェックした人の大部分(6360/9830)は、具体的記入欄のテキストに設問意図と合わない内容~家族の名前や、無関係な情報、自分の性的志向など~を記入していた、つまり誤って「その他」にチェックしていました。

あと何問か費やせば、このような非標本誤差を排除できるかもしれませんが、性別の質問にそんなにボリュームは割けない、というわけで、無回答を許容するという結論に至っているようです。そのほかに、「その他」に記入されたテキストを分類するコスト、そして分類すれば結局「不明」が生じるという理由もあるかもしれません。

マーケティングリサーチの場合、若干「その他」が過剰になるとしても、そう大きい数ではないのだから「その他」選択肢を設けても問題ないのではと個人的には思います(集計等の処理が少しだけ複雑になるが)。なにより、男女2つの選択肢しかないという保守的な方針を採用するのは、「マーケティング」という革新を重んじる業務の思想と合わないような気がします。

まあ、この問題は早晩業界内で解決すると思います。私が気になるのは、「無回答を容認する」ことのオンライン調査での採用についてです。

オンライン調査では、選択肢による設問については、必須回答の制御を入れて、無回答を容認しないのが一般的です。(細かいことを言うとラジオボタンについては一回チェックをいれると、別の選択肢をチェックして変える以外はできなくなってしまう/クリアできないというhtmlフォーム上の問題があります。)

しかし、マーケティングリサーチにおける回答者の権利について、次のように書いているテキストもあります。「対象者がインフォームドコンセントフォームに署名した場合でも、対象者には特定の質問に答えない権利があります。」( “The Essentials of Marketing Research” Silver, Stevens, Wrenn , Laudon  2013)

私自身、昔、訪問調査の協力依頼状に上記のような旨を記載したような記憶があります。JMRA「マーケティング・リサーチ綱領」の私の持っている古い版(1996年改訂版)では、「[B.調査対象者の権利] 第3条 調査対象者の協力は、調査のどの段階でも、調査対象者の自由意思によるものでなければならない。」とあったので、私は個別質問に対する回答拒否の権利があると解釈していました(最新の版の解説では、「リサーチプロジェクトへの協力は本人の完全な自由意思に基づくもので、リサーチプロジェクトのいかなる段階においても参加を中止する権利を有していること」となっているので、個別設問に対する回答拒否の権利は否定する見解になったのかもしれません)。

原則的には、オンライン調査、というかComputer Assisted(コンピュータによって回答が制御される)のあらゆる調査で、性別設問に限らずすべての質問について、拒否・無回答にする逃げ場が何らかの形で設けられていた方が良いのではないか、というのが私の空論になります(単純に拒否等の選択肢を全ての質問に追加するということではなく、システム的にあらかじめ用意されていることを考えています)。

少なくとも、必要な選択肢を入れ忘れて実施してしまった場合、まじめな回答者が本意でない選択肢を選ぶしかないという無残なことをいくぶん回避できる、というメリットがあります。

これを、リサーチャー側の利便性を損なわないように実装するには、アンケート/集計システム全体のつくりに関わることになるので、なかなか大変だと思いますが、最初からそのようにシステムを設計すれば、そう難しいことではないように思うのですが、どうでしょうか。

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