共分散構造分析(SEM)とは?意味や具体例、活用の仕方を解説

02 2024.07

データ分析手法

共分散構造分析(SEM)は、特に複雑な因果関係を持つデータの分析に有効で、新商品開発やブランド戦略の最適化、各種施策の効果測定など、ビジネスやマーケティングの分野で広く利用されています。

本記事では、共分散構造分析の概要や活用例、メリット・デメリットなどを解説します。
共分散構造分析(SEM)とは?意味や具体例、活用の仕方を解説

共分散構造分析(SEM)とは何か?

「共分散構造分析(Structural Equation Modeling:SEM)」とは、共分散構造を基にして複数の変数間の因果関係を統計的に推定する手法です。この分析では、観測変数(直接測定可能な変数)と潜在変数(直接測定はできないが、複数の観測変数から推測される変数)の関係をモデル化し、理論や仮説に基づいた因果関係の検証を行います。

たとえば、「顧客満足度」という潜在変数は、具体的なアンケート項目(サービスの質、価格の満足度、再購入意欲など)として測定される観測変数によって推測されます。この潜在変数と観測変数のそれぞれに、どのような因果関係が潜んでいるかを分析するのが共分散構造分析です。

共分散構造分析は、複数の変数間の関係性を包括的に理解するための強力なツールとして、さまざまな分野で利用されています。またビジネスやマーケティングの意思決定を支える強力なツールとなり、戦略的なアプローチを可能にすることから、企業の競争力を高める武器となります。

そもそも共分散・共分散構造とは

「共分散」は2つの変数間の関係性を示す統計量であり、「共分散構造」はこれらの関係性を体系的に表現したものです。共分散構造分析は、共分散構造を利用して変数間の因果関係を解析する手法であり、複雑な関係性を持つデータの分析に有効です。さらに詳しく解説しましょう。

共分散とは

共分散は、2つの変数の関係性を表す統計量(データから計算できる値やその計算方法を表す関数)のことです。具体的には、2つの変数がどの程度一緒に変動するかを示します。共分散が正の値を取る場合、一方の変数が増加するともう一方の変数も増加する傾向にあります。逆に共分散が負の値を取る場合、一方の変数が増加するともう一方の変数は減少する傾向にあります。共分散が0に近い場合、2つの変数間にはあまり関係がないことを示します。

共分散構造とは

共分散構造は、複数の変数間の共分散(相互の関係性)を体系的に表現したものです。共分散構造分析ではこの共分散構造をモデリングし、変数間の因果関係や相関関係を解析します。共分散構造分析は潜在変数を含む複雑なモデルを扱うことができるため、ビジネスやマーケティング、心理学など多様な分野で活用されています。

共分散構造分析の具体例

共分散構造分析の具体例として、「顧客満足度」を分析するモデルを以下で示しました。このモデルでは、潜在変数として「サービス品質」と「製品品質」があり、これらが「顧客満足度」に影響を与えると仮定します。また、各潜在変数は複数の観測変数によって測定されます。
「顧客満足度」を分析する共分散構造分析モデル
この図では矢印が因果関係を示し、潜在変数である「サービス品質」と「製品品質」が「顧客満足度」に正の影響を与えることを示します。また各潜在変数は複数の観測変数によって測定され、これらの観測変数が潜在変数の値に反映されています。

このようなモデルを構築して実際のデータを用いて分析を行うことで、サービス品質や製品品質が顧客満足度にどの程度影響を与えているか、またそれぞれの観測変数が潜在変数をどの程度正確に測定しているかを推定できます。(図における数値が影響の強さを示しています。)

共分散構造分析では、このように複雑な因果関係や潜在変数の構造を明らかにし、理論や仮説の検証に役立てることができます。
共分散構造分析進める手順

共分散構造分析進める手順

ステップ1: 研究目的と仮説の設定

最初に共分散構造分析を行う目的を明確にし、分析する変数間の関係性について仮説を立てます。またこの段階で、潜在変数と観測変数も特定しておきましょう。

ステップ2: 測定モデルの構築

立てた仮説に基づき、潜在変数と観測変数、およびそれらの間の関係性を示すパス図を作成します。パス図とは変数間の関係を視覚的に示した図で、潜在変数と観測変数の相互関係を矢印で表現したものです。

ステップ3: データの収集と前処理

続いて分析に必要なデータを収集します。共分散構造分析では、一般的にアンケート調査や既存のデータなどを用いて必要なデータを集めます。データの質と量が分析の精度に直接影響するため、必要充分なデータを収集しましょう。

データが集まったら前処理を行います。欠損値の扱い、変数のスケーリング、正規性の確認など、データを分析に適した形に整えましょう。

ステップ4: モデルの推定

専門のソフトウェア(AMOS, LISREL, Mplusなど)を使用して、モデルのパラメータ(たとえば因果関係の強さ、パス係数など)を推定します。このステップでは、モデルがデータにどの程度適合しているかを数値的に評価します。

ステップ5: モデルの適合性評価

この段階では、推定したモデルが収集したデータにどの程度適合しているかを評価します。通常は適合性指標(例: χ^2統計量、RMSEA、CFIなど)を用いて、モデルの妥当性を検証します。

ステップ6: 結果の解釈

推定されたパラメータと適合性指標を基に、モデルが仮説や理論とどの程度一致しているかを確認します。モデルの適合性が不十分な場合はモデルの修正を行い、再度推定と評価を実施します。修正は理論的根拠に基づいて慎重に行いましょう。

共分散構造分析の活用事例

共分散構造分析は多様な分野で活用されていますが、ここでは主にマーケティング活動における活用例を紹介します。

活用例1:顧客満足度の向上策の特定

共分散構造分析を用いて顧客満足度に影響を与える要因(サービス品質、価格、ブランドイメージなど)を特定すれば、それぞれの要因が満足度にどの程度影響しているかを把握できます。これにより顧客満足度を向上させる施策の優先順位を特定でき、効率的かつ効果的な対応が可能となります。

活用例2:ブランド戦略の最適化

共分散構造分析により、ブランド認知度やブランドイメージ、顧客ロイヤルティなどの要素が、購買意欲やブランド価値にどのように影響しているかを分析できます。ブランド戦略の効果を確認できるため、改善点や評価できる点などを見つけ出すことができます。

活用例3:新商品開発の支援

共分散構造分析では消費者のニーズや好み、商品特性と購買意欲との関係を分析できるため、市場の需要に合った新商品開発を支援します。ローンチ時の成功率向上を期待できるでしょう。

活用例4:広告キャンペーンの効果測定

共分散構造分析を用いて、広告キャンペーンがブランド認知度や購買意欲にどのように影響しているかを分析すれば、広告のメッセージやチャンネル選択の最適化に役立ちます。

共分散構造分析のメリット

共分散構造分析により変数間の複雑な関係を理解できるほか、精度の高い戦略立案や可視化による共有が容易になります。共分散構造分析のメリットを、以下で詳しく解説します。

メリット1:複雑な関係性を明らかにできる

共分散構造分析では、相関分析や重回帰分析では対応できない大量な要素(変数)間の複雑な関係性を一度に計算できます。消費者の購買プロセスひとつを取っても、消費者の嗜好や価値観、社会的なトレンド、相場、口コミなど、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。共分散構造分析を用いればこれらの因果関係が明確になり、複雑な関係性を理解できます。

メリット2:戦略立案の精度が上がる

共分散構造分析によって潜在変数を含む複数の因子が消費者行動にどのように影響しているかを理解することで、より効果的で質の高いマーケティング戦略やプロモーション活動を計画できるようになるでしょう。

メリット3:可視化による共有・発信ができる

共分散構造分析では共分散構造をモデル化して、結果を1枚の図で可視化できるため、誰でも理解しやすいのが特徴です。また、チーム間や部署を超えても同じ認識・理解で共有できることもメリットといえるでしょう。

共分散構造分析のデメリット・注意点

共分散構造分析には、デメリットや分析時に注意したいポイントもあります。メリットと合わせて理解しておくことで、分析の信頼性を高めより有意義な結果を得ることができます。

デメリット1:モデルが複雑で専門知識が必要

共分散構造分析では、潜在変数や多数の変数間の関係をモデル化するためその設計が複雑になりがちで、モデルの仮定や構造に関する専門知識や深い理解が求められます。また専門的な統計ソフトウェアとそれを操作する技術、解析結果を解釈するための高度な統計的知識も必要です。

自社にこれらのリテラシーやリソースが不足している場合は、知識と経験が豊富な調査会社や専門家に委託することも検討しましょう。

デメリット2:大量のデータと正規分布データが必要

共分散構造分析を適切に実施するためには、充分なサンプル規模が必要です。データが少なすぎると、モデルの信頼性や妥当性が低下する可能性があります。また多くの共分散構造分析において、データが正規分布していることが前提となります。この仮定が満たされない場合、分析結果の信頼性に影響を与えることがあります。

デメリット3:因果関係を誤解する可能性がある

共分散構造分析は因果関係をモデル化するために用いられますが、分析結果から直接的な因果関係を証明することはできません。適切な理論や仮説に基づかないモデルでは、誤った因果関係を導く可能性があります。

また 同じデータに対して、異なる構造を持つ複数のSEMモデルが適合する可能性があります。これにより、どのモデルが「真の」モデルであるかを決めることが難しくなる可能性もあります。

デメリット4:モデルの妥当性を完全には保障できない

共分散構造分析では、モデルの適合性を評価するために複数の指標が用いられますが、これらの指標だけでモデルの妥当性を完全に保証することはできません。さまざまな視点で複数の指標を検討し、常に妥当性を確認することが重要です。

またモデルの構築と評価は一度きりの作業ではありません。モデルの改善と再評価を反復的に行い、より良いモデルを目指しましょう。

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共分散構造分析は、複数の変数の複雑な関係性を明確にできるため、マーケティングのほか人事や経営、医療・公衆衛生、環境化学など幅広い分野や業種で活用されています。特にマーケティング分野ではブランド戦略の最適化やコミュニケーション施策の効果測定、顧客満足度対策の改善など多岐に渡り有効活用でき、これらに課題を抱える企業にはぜひ導入していただきたい分析手法です。

ただし共分散構造分析を行うには大量で質の良いデータが必要になるほか、専門的な知識やノウハウ、技術が求められます。自社で対応できない場合は、調査会社や専門家に依頼することをおすすめします。

定量調査のアンケート画面作成、配信、集計まで全ての業務をWeb上で完結できるセルフ型アンケートツールの「Surveroid(サーベロイド)」では、500万人の消費者パネルを保有しています。大量で質の良いデータを活用した共分散構造分析も可能で、御社の目的に合った結果をスピーディに得られるでしょう。

またSurveroidは、初めてWebリサーチを行う場合でも安心なサポート体制が充実しています。アンケート作成時のプロ目線によるチェックや結果の読み取り方の相談など、サポートセンターがしっかりとフォローしてくれるため、不自由なくサービスを利用できます。

まとめ

複数の変数間の関係性を包括的に理解できる共分散構造分析は、マーケティングや営業活動の最適化などさまざまなシーンで活用できます。戦略立案の精度が上がるほか社内での共有や発信も簡単にでき、有効活用ができれば企業を成長させる強力な武器となるでしょう。

一方で専門的な知識やノウハウがないと実施が難しいため、自社で導入できるリソースが不足している場合は、調査会社や専門家に依頼しましょう。

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