マヂカルラブリーがM-1グランプリで優勝できた理由

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マヂカルラブリーがM-1グランプリで優勝できた理由

2020年の漫才M-1グランプリ優勝者「マヂカルラブリー」

2020年の漫才M-1グランプリは、おいでやす小田とこがけんというピン芸人2人のユニットであるおいでやすこが、大阪の漫才コンビ見取り図との接戦に競り勝って、マヂカルラブリーが優勝しました。マヂカルラブリーは、3年前に大滑りして上沼恵美子審査員に怒られた屈辱を晴らす、うれしい悲願達成でした。

ただ、マヂカルラブリーのネタはファーストラウンド、最終決戦の2本とも、ボケの野田クリスタルはほとんど喋らずふざけ回っているというもので、これが漫才といえるのかという議論がお笑いファンの中では起こっています。ボケとツッコミの2人がセンターマイクを前において掛け合いをするという「しゃべくり漫才」が正統な漫才である、というような共通認識がなんとなく世間にはあるようです。

さて、M-1の翌日、審査員の1人でもあるナイツの塙さんが、自身のYouTube番組「上石神井ラジオ」をライブ配信し(共演はこち亀芸人として知られる三日月マンハッタンの仲嶺さん)、前日のM-1グランプリについていろいろと示唆に富んだお話をしていたので、ご紹介したいと思います。

マヂカルラブリーが優勝できた理由

マヂカルラブリーが大受けし優勝した理由について、塙さんは、マヂカルラブリーがそれまでの活動で認知を獲得してきたことにあると言います(「認知が一番強いんだよ」)。

マヂカルラブリーのファーストラウンドのネタ「フレンチ」(フレンチレストランでのマナーが難しい、という議題)で、野田クリスタルが「パリーン」といって窓(ドア?)をぶち破ってレストランに飛び込んできたとき、会場は大受けしたのですが、塙さんはそのシーンについて、「あれは3年前であればそんなに受けなかったはず」だと断言します。

大滑りした3年前のM-1から、R-1(ピン芸人のお笑いコンテスト)での優勝に至る活動の中で、「野田クリスタルは面白いやつだ」という認知が十分にオーディエンスの中に形成されていた、その条件ができていたゆえに、あの大受けは起こったのだと塙さんは言います。

そして、その人々の認知は、マヂカルラブリーが3年前のM-1で「やっちゃった」、ということも含めて、自身の活動・活躍を通じてドラマを紡いできたことによって形成されたのだとし、それが自分たちで作ったアドバンテージ、1つの実力であるということを認めています。

マヂカルラブリーのネタは漫才といえるのか

さらに、話は最初に記した「マヂカルラブリーのネタは漫才といえるか」という議論、つまり「『漫才』の定義」の問題に移ります。

塙さんは、師匠である内海桂子の教えに従って「漫才は何をやってもいいんだ」としつつ、『漫才』の定義については、「ないようで、でもある」と考えます。そして、結局その定義を1つ作るとするならば「需要と供給の関係によってできている」という見方を披露します。

例えば、おにぎりを食べたいと思っているときに、サンドイッチを出してもそれは受け入れられない。しかし、漫才コンテストであるM-1、もちろん会場の観客も面白い漫才を求めているという状況であり、その時のあの場面では、あのネタが求められており、そして受容されたのである、それは、漫才として受容されたのだ、と塙さんは説明します。

つまり、時間や場所のない「死んだ」言葉の定義ではなく、生きた言葉としての「漫才」の定義が動的にその時点で形成されているのだ、というようなことが考えられているわけです。

以上が、イノベーションの受容やカテゴリーの再定義に関連したお話として紹介したかった部分です。

終わりに

この他にも、東京ホテイソンのネタ選択の逡巡に関係して、お笑いアーリーアダプターが集まる準決勝と、一般のお茶の間に近い観客の決勝におけるオーディエンス・セグメンテーションの問題、ウエストランドのネタに関する「話題性」と「商品力」の関係についてなど、興味深い話がありますので、面白いと思った方はYouTubeにアーカイブが残っていますので、音は若干悪いですが聴いてみてください。
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