2021年5月31日 更新

市場調査と学術調査の違い

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私のクライアントには企業のマーケティングリサーチャーもいれば、大学や研究機関の研究者もいるのですが、今回は市場調査と学術調査の違いについて書いてみたいと思います。

市場調査は(狭い意味では)商業目的、学術調査は研究目的、とまずは簡単にいえます。

市場調査でも、担当者の知的関心だけで研究目的のように行っているもの、学術調査でも学者が論文を量産してその世界で出世するためにおこなっている、なんてこともあるかもしれませんが、それらは例外といっていいでしょう。

もう一つ、市場調査の多くは、結果が非公開です。そして、そのデータを利用するのは、その企業のごく一部の人で、短い期間の間だけ、ということが一般的だと思います。利用者がリサーチ結果をみて、「この新商品の開発を進めよう」とか、「来期はインターネットの広告予算を倍にしよう」とかいうことを決められれば、それでそのリサーチの役目は終わりです。

一方、学術調査は基本的に結果が論文などの形で広く公開されます。誰が活用するかはわかりませんし、それこそ何十年後に評価され、活用されるなどということもあります。

いわば、市場調査のレポートは、特定の人に向けた手紙のようなもので、一方、学術調査の論文は、世界中に向けた文学作品のようなもの、といえるかもしれません。

また、市場調査は、本質的にその少数の利用者を納得させる内容になっていれば良いのに対し、学術調査については、設計、手法などがその学問分野や学会の審査を受け、さらに公開されれば一般の批判を受けることになります。

ある程度は、市場調査は結果が全て、つまりその時役にたてば、設計や手法に粗いところがあっても許されると思います。だから、DIYリサーチでもよいし、むしろ効率的になることもある。一方、学術調査は手続きが正しく、かつその学問分野での基準や文脈に沿っていなければ、その結果が評価されることはないといっていいでしょう。

どちらがいいということではなく、その目的が違うということです。学者の方でも、民間が行った市場調査の設計や分析に対して、「学術調査ではこれでは通らないけど、実務上(コストや時間が限られる中での)の課題の解決としてこういう手法にしている、というのは理解できるし、参考になる」というようなことを言う方もいます。

一つ市場調査と学術調査の違いの例をあげます。それは、グループインタビュー(Focus Group Interview = FGI)という手法についてです。

「皮肉なことに、フォーカスグループはビジネスの中で最も一般的に使用される定性的な方法だが、学会では最も一般的に使用されていない定性的な手法である」(R.ベルク他『消費者理解のための定性的マーケティング・リサーチ』碩学社、2016)といわれています。

同書では、市場調査でグループインタビューが盛んな理由として、迅速・安価・簡単であることとともに、「実務家(しばしばマジックミラーの後ろにいる)が潜在的顧客を直接見ることができる」ということをあげています。まさに、ごく限られた人の役に立てばよいという目的に合っているということかと思います。

一方、学術調査では、グループインタビューはグループダイナミクス(参加者どうしのやりとり)によって状況が複雑になり、1対1のインタビューより個々の回答者を理解するための深みに欠ける、声の大きい参加者にひっぱられたりするなどの理由で不人気だということです。

また、グループインタビューはモデレーター(司会者)個人の技量に成果が相当左右されるという面があり、学術調査の手法としては不利がありそうです。科学的な手法というより、モデレーターの職人的な熟練によって成否が分かれる、というところも市場調査らしいと思います。

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