別のニールセン

15 2024.02

編集室メンバーコラム

別のニールセン

Webフォーム最適化

ニールセンといえば業界で知らない人はいないマーケティングリサーチの世界的企業ですが、ネット系の調査会社の方であれば、ウェブサイト・ユーザビリティの文脈で高名な研究者のヤコブ・ニールセンを想起する人も中にはいるでしょう。

パネル・サイトやアンケートフォーム/システムのインターフェイスデザインの時にニールセンのデザイン原則を参照した、という場合もあれば、クライアントからウェブサイトの評価やユーザビリティ・テストといったリサーチ・プロジェクトを依頼されて、ニールセンの必要サンプルサイズの考え方を設計の参考にした人も多いのではないか、と思います。

インターネットリサーチの調査票というのはWebフォームですので、その設計にはWebフォーム最適化(日本では入力フォーム最適化 Entry Form Optimizationといわれることが多いようです)の考え方や知見が当然反映されているべきだと思います。

それは、紙の調査票を作成するときに、フォント(サイズ、強調の仕方)、設問と選択肢の配置、飛び先の指示方法、紙の質(真っ白は良くなくてある程度古紙が含有されているほうがよい、とか)、とじ方、紙のサイズ(特に郵送の場合何回折る必要が生じるか、全体の重さがどうなるかなど)、見開きの使い方、などなどを考慮するのと同じことです。

どちらも同じで、ユーザー(回答者)に理解しやすく使いやすいものとすることで記入(入力)のミスを減らし、インターフェイスの良さにより途中脱落を少なくしてコンバージョン率(回収率)を上げること、が目標になります。

社会調査・マーケティングリサーチの調査票としての入力フォームの設計には、特有の観点や論理が必要になる部分もあるかもしれませんが、基本的には、一般的なWebフォーム最適化、クリック数ルールやフィッツの法則といった知見に基づいたデザインが求められるのだろうと思います。

アンケートフォームへの示唆

さて、先のヤコブ・ニールセンが代表をつとめる Nielsen Norman Groupのウェブサイトに、「Webフォームデザインのベストプラクティス」という記事(https://www.nngroup.com/articles/web-form-design/)があり、次の10のTipsが挙げられています。調査票作成についての示唆があるかどうか見てみましょう。

1.    短くする
2.    関係した要素(ラベル、入力フィールド)は視覚的にグループ化する
3.    1列のレイアウトにする
4.    論理的な順番にする
5.    プレースホルダーを使わない
6.    入力内容にフォームのタイプとサイズを合わせる
7.    入力欄の必須と任意を示す
8.    入力ルールを説明する
9.    「リセット」「クリア」ボタンを使わない
10.    目立つ明確なエラーメッセージ

「1.短くする」はスマートフォンでの回答が中心の現在、調査票設計上も最大の課題といえます。記事では「短くするには、時間がかかる」と書いてありますが、まさに必要性を丁寧に検討する手間を惜しむために、長い調査票になっているケースがたくさんあります。

「2.関係した要素(ラベル、入力フィールド)は視覚的にグループ化する」は、調査票でいえば「今何について聞かれているかわからなくなるような質問の構成・順番(にしない)」ということと対応しています。また、記事では「読み上げソフト用にラベルを属性付けする」ことも挙げられていますが、この辺はアンケートフォーム作成時なかなか気が回らないところです。

「3.1列のレイアウトにする」は、紙の調査票ベースで考えている場合にありがちな「考えなしに選択肢を複数列にする」悪弊が思い浮かびます。実際は紙でも複数列にすることはデータに問題が生じがちで、紙面サイズがあるからやむを得ず折り返すのですが。

「4.論理的な順番にする」については、記事中「よく選ばれる選択肢を前に配置すべき」と書かれていて、これは調査票の場合は議論が生じそうです。つまり、順序効果のバイアスが生じてしまうのでは、という危惧があります。しかし、選択肢の順序というのは回答者に「メジャー→マイナーな順に並んでいる」という意識を与えるので、ランダムに並んでいることが誤差を最小化するとは限らず(マイナーな選択肢が最初にあるとむしろメジャーなものと勘違い・拡大解釈されて、結果が過大になる可能性がある)、並べ方については質問内容に応じて考える必要があります。

5~8あたりは、現在のたいていのアンケートフォームでは考慮されていて、それほど問題は生じていないように感じます。

「9.『リセット』『クリア』ボタンを使わない」「10.目立つ明確なエラーメッセージ」については、比較的複雑な、数値入力が多い実態調査などでは、念頭に置いておいた方がよいアドバイスだといえます。たぶん、役所等の各種入力フォームでこうしたことが全然考えられていないので激怒した人は多いでしょう。

一般的なWebフォームデザインについて、オンラインのリサーチャーはその考え方を基礎知識として知っているべきだと思います。さらに、調査票としてのWebフォームの場合は、そのほかに「不必要な数字を表示しない」「ページネーション(飛び先)とその論理をユーザーに理解させる」「DK/NAの選択肢を尺度に加える場合は、視覚的に明確に分離する」「スライダーバーによる入力は使わない」「プルダウンメニューは使わない」などなど、特有のTipsがたくさんあると思うので、機会を改めてまとめてみたいと思います。

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